釣り堀に行こうと言われるうちに
- Admin
- 7月20日
- 読了時間: 4分

昨日、私の姪のちいちゃんが遊びに来た。
八歳になる女の子で、お父さんに連れられてやって来た。
本当はその日、私はタンゴ仲間と、ディエゴとアルダナの送別ミロンガへ行く予定だった。
彼らはこれから上海へ行き、その後、ブエノスアイレスへ向かう。
二ヶ月ほど日本を離れるという。
しばらく会えなくなるので、最後に顔を出そうと思っていた。
けれど、その日にちいちゃんが来ることになった。
迷うことはなかった。
家族一択である。
友人には本当に申し訳ないが、送別ミロンガはキャンセルした。
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何時に来るのか、よくわからなかった。
仕方がないので妻と家で動画を観ていると、午後四時頃、外からドカドカと足音が聞こえてきた。
到着するなり、ちいちゃんは言った。
「釣り堀に行こう」
午後四時である。
しかも、外は35度近い。
私は釣りにほとんど興味がない。
何とか別の方向へ持っていこうとした。
「鬼ごっこは?」
「かくれんぼは?」
いろいろ提案してみた。
けれど、ちいちゃんは釣り堀の一本槍だった。
調べてみると、午後六時まで営業している。
結局、私と妻、お義父さん、ちいちゃんとお父さんの五人で、近所の釣り堀へ行くことになった。
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四時半過ぎに到着した。
鯉を釣る池だった。
着くなり、お義父さんは一人で釣りを始めた。
少し離れた場所に座り、黙々と釣り糸を垂らしている。
傍から見れば、一人で来た釣り好きのおじさんにしか見えない。
家族で来た気配がまったくない。
さすが、天上天下唯我独尊である。
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妻は最初から見学だった。
私はちいちゃんと、ちいちゃんのお父さんのそばで釣りを始めた。
ちいちゃんは前回来た時に、十八匹も釣ったらしい。
かなり自信がある。
実際、始めるとすぐに何匹か釣り上げた。
私は初めてだったので、最初は勝手がわからなかった。
餌のつけ方。
浮きの見方。
竿を上げるタイミング。
少しずつ試しているうちに、だんだんコツがわかってきた。
そして、続けて何匹か釣れるようになった。
すると、ちいちゃんの機嫌が少しずつ悪くなった。
自分より私の方が釣れ始めたからだ。
わかりやすい。
私は六匹ほど釣ったところで、休憩することにした。
大人なのである。
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お義父さんも、一人で釣ることに飽きたのか、いつの間にかちいちゃんのそばへ来ていた。
ちいちゃんのお父さんは、釣り竿に餌をつける。
魚が釣れると、針を外す。
そして、池へ戻す。
完全に裏方になっていた。
釣れば釣るほど、お父さんの仕事が増えていく。
魚を釣っても、すぐに逃がす。
また餌をつける。
また釣る。
また逃がす。
考えてみると、少し不思議な遊びである。
釣れれば釣れるほど面倒になるので、一種の罰ゲームのようにも見えた。
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それでも、周りには本気の釣り人が何人もいた。
鯉の池とは別に、ブラックバスの釣り堀もあった。
自分の竿を持ち、かなり本格的な格好で釣っている人もいる。
駐車場には東京ナンバーの車もあった。
千葉では、案外有名な場所なのかもしれない。
施設はかなり自由な状態で、あまり整備に力を入れている様子はなかった。
それでも人が来る。
きっと、それで成り立っているのだろう。
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一時間半ほど釣りをしたあと、みんなで丸亀製麺へ行った。
ちいちゃんが、うどんを食べたいと言ったからだ。
食事を終えて家へ戻ると、今度は近所のスーパーへ行きたいと言い出した。
ちいちゃんはお父さんに連れられ、そのまま帰っていった。
来た時と同じように、慌ただしかった。
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釣り堀でかいた汗が、身体に残っていた。
私は一人で、近所の日帰り温泉へ行った。
湯に浸かりながら、静かになった一日を思い返した。
送別ミロンガには行けなかった。
釣りにも、それほど興味はなかった。
35度の中で釣り堀へ行くことになるとも思っていなかった。
けれど、こんなふうにちいちゃんが私にまとわりついてくるのも、あと二、三年かもしれない。
ちいちゃんは、ずっと八歳ではない。
「釣り堀に行こう」
そう言われて一緒に出かけられる日も、いつか終わる。
それまでは、もう少し付き合ってみようと思う。



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